甲子園出場を目指す開成高校野球部を数年にわたって追い続けた

甲子園出場を目指す開成高校野球部を数年にわたって追い続けた、ルポルタージュ。

「開成が甲子園？」と鼻で嗤ってはいけない。10点取られても15点取ってドサクサ紛れに勝つのが、開成野球なのである。徹底的な合理主義のもとに成立した弱いチームが強豪校相手にどう戦うのかという哲学は、意外なことに感動的ですらあり、実際そこそこ強いのである。
ネタバレを防ぐために詳しく解説できないのが残念でならないが、「勝負以前に、（相手チームに）失礼があってはならない」「野球しようとするな」「一生懸命投げるな」「大雑把に振れ」など、監督の口から発せられる謎の珠玉の言葉を選手たちは正しく理解していくのである。「グラウンドでやるのは『練習』ではない」というなぞかけへの答えの明確さには、体が震える程の感動がある。ぜひ本文で確かめて欲しい。
考えてみれば甲子園常連の強豪校だって、同じティーンエイジャーの高校生である。何がどのぐらい違っていて何が同じなのかを冷静に判断すれば、勝機は意外に転がっているのだなとつくづくと思った。それはつまり開成の個性で勝つ、ということである。

野球部の選手も多くは東大に行って、日本を動かすエリートへと成長するだろう。彼らはおそらく幼い時から「優秀な子」として育てられ、社会の勝者になるべくして生きてきた人材だ。しかし彼らは野球部で「自分たちは弱い」というもう一つの視点を得て、しかもそれを真剣に克服しようとしているのである。
彼らが社会の中心に立った時に、野球部で育んだしなやかさとしたたかさは如何に発揮されるだろうか。彼らが描く日本の未来は、少しばかり楽しみでもある。