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どこまでもまっすぐな腰まである黒髪
- 2010/07/26 (Mon) |
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「好きなんだ!」
思いきって言った。 絶對高潮カプセル
金曜日の放課後。人気のない体育館裏。
「僕と、付き合ってほしい!」
動悸はしていたが、ちゃんと言い切った。
ところが、言われた相手は、平静そのものだった。
「ふーん……」
そんな声をあげながら、腕を組み、いつも通りの、どこか笑みを含んだような視線で、僕のことを見下ろすようにして見ている。背は、実際には僕の方が少し高いはずなのだが、本当に見下ろされているような気がする。
どこまでもまっすぐな腰まである黒髪と、通った鼻筋、ちょっと吊り上がり気味の目が特徴で、こう書くとキツそうな感じに思われるかもしれないが、でもどこか不思議と可愛らしさの漂う顔だちの、彼女の名は不破マルガレーテ。本名だ。
だからと言って、噂によれば、彼女はハーフではないらしかった。ならばその名前はどういう事なのかと思うが……両親が変わった人だったのだろうか。
彼女自身も変わった人だ。
集団行動に一切加わろうとしない。行事の時なんかは、必要最低限のことだけして、それ以外の時は今みたいに腕組んで、眺めてるだけだ。
クラスの誰とも喋ろうとしない。話しかけられても、無視してしまう。
休み時間は、毎日コンビニのおにぎり二つと(具は日によって違う。サンドイッチじゃないのが意外)、日本茶(これも意外)を摂取して、その後はカバー付きの文庫本を読んでいる。
つまりは、人嫌いなのだろうか?
彼女は、しげしげと僕を見つめた後、
「……えーと、名前なんだっけ?」
と訊いた。
「ぼ、僕は、富永亮太」
呼び出しの手紙に、もちろん僕の名前は書いておいたのだが、よく読んでくれていないらしい。
「そう、リョータね。リョータ……」
彼女は、「う」を省略した、独特の発音で僕のことを呼ぶと、
「それでさ、リョータはなんで私のこと好きなわけ?」
いきなり質問を投げかけてきた。
「う……」
固まった。
答えにくい質問だったからだ。
彼女は、いじめられているわけではないが、クラスでも完全に孤立している。ロクに話したこともない。好きになったのが何故なのかなんて、分からない。
本当に、まったく分からないのだ。
彼女がノラ猫に餌やってたとか、貧血で倒れたとき介抱してくれたとか、読んでる本がフランダースの犬だったとか、そういう意外な一面を発見系のイベントは一切無い。
なのに、好きになってしまったのだ。それも、ものすごく猛烈に。
だから、正直に答えた。
「ごめん、分からないんだ」
「ふーん……じゃあ、ただ何となく?」
「う、うん……何となく……」
言いにくいが、そう言うしかなかった。
彼女はまたジロジロと僕を見つめて、一度軽く目を閉じて、フフッと無邪気な表情で笑うと、
「正直なのね、リョータ。それとも、そういう物なのかな、男の子って」
そんなことを呟いた。
「ど、どうなんだろうね……」
僕はそう呟きながら、心中で急速に広がっていく「あっ、もうこれはダメだな」感を味わっていた。
今まで告白した回数は三回だが、いずれも失敗している。つまり、わりと失敗はし慣れているといってもいい。その今までの失敗パターンと、現在のマルガレーテの反応は似通っていた。
つまり、相手がドキドキしていない場合は、告白は失敗なのである。これは、僕が体得した真理だ!
しかし、いちおう返事を確かめておこうと、すでにウンザリしながら訊いてみた。
「それで……僕と付き合って……くれますか?」
もう、この後のシミュレーションも出来ていた。
断られる→「わかった。ごめんね、ビックリさせちゃって」と言う→サッサと家に帰ってゲーム三昧。この流れだ。
「いいよ」
「わかった。ごめんね、ビックリ……」
そこまで言って、硬直した。
「今、なんて言ったの?」
「だから、いいわよって言ったの。あなた、告白しておいて、その返事をよく聞いてないなんて、おかしいんじゃない?」
マルガレーテが、腰に手を当てて、呆れた視線で僕を見る。
「いや……その……だって……!」
僕は支離滅裂な言葉を呟きながら、口をパクパクさせて、視線をあちこちに泳がせた。
「じゃあ……」
「私はリョータの彼女。あなたは、私の彼氏」
僕は、まだ信じられなかった。
「何で……?」
今度は僕が訊く番だった。
「どうして、僕と付き合ってくれるの?」
こんな、平凡が服を着て歩いているような男と?
「そうねえ……」
彼女は、腕を組んで、またフフッと笑うと、
「何となくかな。リョータと一緒だよ」
「そうなのか……」
心が急に晴れあがっていく。ようやく、実感が湧いてきた。
「嬉しいな。じゃあ、明日、早速どこかに行こうか?」
「いいわよ。ただし、その前に一つ条件があるの」
「え、どんな条件?」
マルガレーテと一緒にいられるのだ。どんな条件でも、恐るるに足らない……
「私、あと一週間で死ぬの。だから、彼女でいられるのは一週間だけって事になるわね」
「はああ!?」
ちょっと待て。
意味が分からない。
「死ぬ?」
「そう、死ぬの」
どこまでも平然とした顔で彼女は頷く。
「え!? え!? それは、何かの病気って事?」
「ううん」
彼女は首を横に振ると、あっさりと言った。
「自殺するの」
やっぱり意味が分からない!
「何を……言ってるんだよ!」
「これからの予定を話してるのよ」
「何で死ぬんだ!? 何か理由があるの!?」
「別に」
また頭を振って、どこか不敵な笑みを浮かべ、
「何となくだよ。やっぱり、リョータと同じだね」
僕はブンブンと首を振ると、
「そんないい加減な理由で死ぬなんて間違ってる! そんなこと、僕は許さないぞ!」
そう叫んだ。女の子相手に叫ぶのって、生まれて初めてな気がする。
「ええー、じゃあ、リョータはいい加減な理由で私を好きになったの?」
「うっ……」
一瞬詰まるが、
「そうだよ! ある意味、いい加減な理由だよ。でも、初めに好きになった理由はいい加減でも、お互いのことを段々に分かり合っていけばそれでいい! 性格が合わなかったら、別れたっていいんだし!」
必死で説得を試みる。
「だけど、死ぬなんて、話が全然別だよ! 死んだらそれでお終いなんだよ! 絶対にそれはいけないよ!」
「フフン」
マルガレーテは鼻で笑うと、
「リョータは普通の人だね。世間の常識に縛られてるよね」
そんなことを言った。
「どういう意味!?」
「リョータ、死んだことあるの?」
「へ?」
まったく想定外の質問だった。
「そりゃ……死んだことはないけど……」
「じゃあ、死んだらお終いなのかどうか分からないよね? 死んだ後の世界は、ひょっとしたら、すごく楽しい世界かもしれない」
「それはそうだけど……生きられる間は、この世界で頑張らなきゃダメじゃないか」
「どうしてダメなの? 誰かが決めたの? 誰かが決めたのならその人の意見だし、誰が決めたのでもないなら思いこみだよ」
論理についていくのがやっとだが、彼女が言っていることが理屈では正しいことは何となく分かる。だけど、分かるわけにはいかない!
「なんで一週間後なんだよ!」
「それも何となくかな。別にいつだっていいんだけど」
「とにかく、生まれたからには死ぬまで生きる責任があるんだよ! それに、お父さんやお母さんだって悲しむよ!」
マルガレーテがまた微笑した。
「私は、お父さんもお母さんももういないんだ。私、アパートで一人暮らししてるの。遺産のおかげで、学校には通えてるけど、そのお金もほとんど親戚にとられちゃった」
「え……」
マルガレーテはくるりと後ろを向くと、
「死んだ後の世界に期待してるわけじゃないんだ。ただ、いま生きてる世界に退屈してるだけ。私さ、もうどうでもいいんだよ、何もかもさ」
そう呟いた。その表情は見えない。
「そうか……本当にどうでもいいんだね?」
「え?」
僕の問いかけに、マルガレーテは振り向いた。
「一週間のあいだは、僕たちは彼氏彼女の関係なんだよね?」
「そうだよ」
「分かった!」
お腹に力を入れて、マルガレーテの目を見すえる。
「じゃあ、早速デートに行こう!」
僕たちが向かったのは、近くのファミリーレストランだった。
「不破さんは……」
「呼び捨てにしてよ、彼女なんだし。マルガレーテでいいよ」
僕はちょっと戸惑いつつ、
「じゃあ、マルガレーテは、何にする?」
「そうだな、ドリンクバーでいいや」
「僕もそれでいい」
注文して、飲み物を取ってきて、席に戻る。
「それで、えーと、その……」
女の子とこんな所に入って話すのが初めてなので、うまく話題が出てこない。
だが、僕の考えていることは一つだった。
一週間のあいだに、彼女に生き甲斐を与えること……つまり、デートによって、この世は楽しいんだよということを教えること!
「うーんと、うーんと……」
意気込みだけが空回りして、思考がまとまらない。
困っている僕を、彼女は一口飲み物を飲んで、両腕で頬杖を付いて、どことなく愉快そうに眺めていた。
「い、いつも本読んでるよね。何読んでるの!?」
とりあえず、最初に思いついた話題はそれだった。
「色々だけど……いま読んでるのは、これ」
カバンから文庫本を取りだすと、ブックカバーを外して見せてくれた。
「えーと……『火星の人類学者』?」
「うん、そこにも書いてあるけど、いろんな特殊な才能のある精神病の人たちについて書いてある本」
パラパラとめくってみる。口絵が何枚かついていた。精神病の人たちが描いた物らしい。
「こういうのに、興味があるんだ?」
「うん。面白いと思うよ」
「ふーん……」
そうか、本が好きなことは間違いないんだな。特殊な精神病にも興味がある。でもそれは、生きる意欲を掻き立てるほどじゃないって事か。
だけど、例えばこの本の内容について話し合ったりすれば、より楽しいと思うかもしれない。
「この本、借りてもいいかな?」
「いいよ。ちょうど最後まで読んだところだし」
僕はこの本を明日までに読み込んで、マルガレーテと会話しようと思った。
さて、会話を続けなくては!
でも……何の話をすればいいんだ?
「他に趣味とかはないの?」
「そうね、考えるのは好きよ。色々なことを、じっくり、一人で考えるの。最近だと、パスカルの本を題材にするのがお気に入りかな」
うーん、それでは会話は広がりにくいなあ。僕は哲学とか詳しくないし……。
「テレビとかは……見ないよね?」
「え? 見るわよ。特に今やってるドラマでは……」
あれ、この話に食いついてくるのは意外だった!
幸い、彼女が見ていたドラマを僕も見ていたので、会話は盛りあがった。
あるていど話した頃、僕は前から気になっていたことを訊いてみることにした。
「ところで、マルガレーテって珍しい名前だよね。外国の人の血が入ってるの?」
「ううん」
マルガレーテは首を横に振ると、
「リョータは、ゲーテの『ファウスト』って読んだことある?」
と、いきなり訊いてきた。
「いや……名前くらいしか知らないけど」
「うちの父さんがね、ファウストだったのよ」
「……どういう意味?」
マルガレーテは肩をすくめて、
「父の父、祖父が『ファウスト』が大好きだったの。だから、自分の息子にウストって名前を付けたの。穀物とかを粉にする臼に、人って書いて臼人。不破臼人だね」
そんな名前の付け方ってどうなんだろうか。
「それで、マルガレーテって言うのは?」
「『ファウスト』に出てくる登場人物の名前なのよ。ファウストに惚れちゃって、気が狂って死んじゃう女の子がマルガレーテ」
「はあ……」
そういう事なのか。
「まあ、最後にはマルガレーテの魂は救われて天国にいるっていう設定になってるんだけど。とにかく、父さんは自分が変な名前付けられたもんだから、娘にはもっと変な名前を付けたのよ」
「そうなんだ……」
「おかしいでしょ?」
そう言って、アハハと声をあげて笑うのだが、僕は一緒に笑っていいものなのかよく分からなかった。
その後は、彼女が僕の趣味について聞きたがったので、ちょっと恥ずかしく思いながらもテレビゲームについての話をした。でも、けっこう興味深そうに聞いていた。
そろそろ暗くなってきたので、
「明日って、時間ある?」
そう切り出してみた。
「うん、空いてるけど……?」
「じゃあさ、遊園地に行こうよ。突然だけど」
断られるかと思った。でも彼女は、
「うん、いいよ」
こっくりと頷いた。
次の日……土曜日は、話した通り、マルガレーテと一緒に遊園地に出かけた。費用は僕持ちだ。日頃貯金しておいた甲斐があった。
高校生にしては大人っぽい印象のあるマルガレーテの服が、少女趣味のフリルの付いたワンピースなのが意外だったけど、正直言ってそのギャップは僕のツボだった。
その日は色々な乗り物に乗った。苦手だったけど、ジェットコースターにも乗った。
「キャーッ!」
悲鳴を上げたのは、僕だけだった。マルガレーテは、こういうのには強いらしい。無表情に乗っていたが、楽しかったらしく、もう一回とせがまれて、仕方なくもう一度乗った。
お化け屋敷にも行ったが、マルガレーテはこういうのにも強いらしく、怖がって抱きついてきたりすることはなかった。
乗り物などの待ち時間には、昨日ほぼ徹夜で読んだ『火星の人類学者』の話をする。
実際に、なかなか面白い本だった。マルガレーテが、精神病者でない人間は本当はいないのだと主張していたのが印象的だった。
その他にも、コーヒーカップに、回転木馬と言った定番から、フリーフォールやその他の絶叫マシンまで、遊園地を一通り制覇した。
「マルガレーテ……楽しかった……?」
睡眠不足と、絶叫マシンによりかなりのダメージを受けた僕が尋ねた。
「うん、楽しかったよ」
笑顔ではあるのだが、その表情はどこか空虚だった。
これじゃまだ足りないんだな……。
「リョータ、顔色悪いよ」
「いや、大丈夫だ。マルガレーテ、明日はさ」
「うん?」
「買い物に行こうか」
日曜日は繁華街でショッピングだ。
マルガレーテは、制服でやってきた。
「どうして、制服で来たの?」
質問すると、
「外出用の服は、一着しか持ってないの」
と言うことなので、マルガレーテに服を買ってあげることにした。
まだ一応貯金の残りがあるので、懐には余裕がある。
「これから暑くなるから、こういうのがいいんじゃない?」
肩の見える、涼しげなワンピースを指差すが、マルガレーテは、
「フフン、リョータ、あなたの魂胆は分かっているんだから」
そう言って、腕を組み、ちょっと小馬鹿にしたような視線を向けてきた。
「どういうこと?」
「そういう露出度の高い服を着せて、私の肌を見たいと思っているんでしょう」
「なっ!?」
手を何度も振って否定する。
「そ、そういうことじゃないよ。単純に気温の問題! 気温の!」
「母さんが言っていたわ。男は七歳を過ぎればみな獣同然。油断すればたちまち喰われてしまうと。真面目に見えたリョータも、やっぱりエロだったのね」
「エロとか言うなよ!」
「私はね、こういうのがいいの!」
そう言ってマルガレーテが試着したのは、やっぱり少女趣味な花柄の服だった。露出度は皆無だ。とにかく好きなのだろう。何のかんの言って、実は僕もそういうの好きだったから、買ってあげるのに異存はなかった。
その日は、いろんなお店を見てまわったり、喫茶店でお互いの小さい頃の話をしたり(もちろん、マルガレーテの家庭環境は複雑そうだったので、慎重に様子を見計らいながらだったが)、占いのお店に行ったりして、あっという間に過ぎてしまった。
その日は、マルガレーテのアパートまで送っていった。
「ありがと、リョータ」
「今日は……楽しかった?」
「うん」
その顔は、心なしか、一日前よりは明るくなっているような気がした。
「じゃあさ……明日も出かけようか?」
「え? だって、学校は……」
僕は真面目な顔で言った。
「この世のことなんかどうでもいいんだろ、マルガレーテ?」
というわけで、僕たちは平日もデートを続けた。
資金は、我が家のタンスから毎日こっそり拝借した。盗みは悪いと思うが、人命には代えられない。
補導員に見つかったりしなかったのは本当にラッキーだったと思う。
郊外の公園に出かけたり、水族館に行ったり……。
日に日に彼女の表情は明るくなっていく気がした。
ある日、マルガレーテはぽつりと言った。
「私、間違ってたな」
「何が?」
不思議に思って尋ねる。
「前に、リョータは普通の人だって言ったでしょ? 常識に縛られてるって」
「そうだったかな」
「うん」
彼女は頷くと、
「リョータは常識に縛られてる人だと思う。そこは間違ってない。でも、普通の人とは違うね。そういう人もいるんだなあって、ビックリしてる」
「……僕、普通だと思うけどな」
マルガレーテはブンブンと首を横に振って、
「ううん、普通じゃない。ぜんぜん普通じゃないよ!」
どういう事なのか分からなかったが、彼女はとても楽しそうだった。
そして、ついに金曜日がやってきた。
今日も買い物に出かけていて、マルガレーテに新しく浴衣を買ってあげていた。
その日の夕方。
「明日はどうしようか、マルガレーテ」
マルガレーテの暮らしている古いアパートの、彼女の部屋の扉の前で、僕は問いかけた。
「明日?」
彼女の表情は明るかった。
もう、死ぬなんて事は頭にないだろう。
そう思ったのに……。
「明日はないよ、リョータ」
答えは残酷だった。
「何だって……?」
「私は今日で死ぬから、明日はない」
「何で……どうしてだよ……?」
僕には分からなかった。
「今まで一週間、楽しかったんじゃないのか? 毎日マルガレーテの笑ってる顔が見られて、すごく嬉しくて……! あれは嘘だったのか?」
「ううん、嘘じゃないよ。一週間とっても楽しかった」
そう言って、また笑う。
その笑顔は、心からの物に見えた。
「でもね、それはこの世のことなの。いちど哲学的に境界を越えた人間にとっては、この世がいくら楽しかろうと、いつでもあの世に行く準備は出来ているの」
「だけど!?」
「リョータに会えたのは一瞬の名称的自己としての幸せ。でも、私は、死ぬ事への憧れを捨てきれないの」
「そんなの……そんなのってないだろ! 浴衣買ったじゃないか!」
「うん、死ぬ時は、あれを着て死のうかなと思って……」
マルガレーテは、呆然としている僕から荷物を受け取ると、部屋の扉を開けて、中に入った。
「ごめんね、リョータ。でも、私のこと忘れて。楽しく生きてね」
「マルガレーテ……」
「じゃあ、バイバイ……」
ゆっくりと扉が閉まっていく。
ゆっくりと扉が……
そんなことさせるか!
「!」
僕は、閉まりかけた扉の隙間に指を入れると、むりやり引き開けた。
「リョータ!?」
「マルガレーテッ!」
僕は不意を衝かれて立ちすくむマルガレーテの肩に手を置いた。
「ダメだ、絶対に死なせない。どんな理屈があろうと死なせない」
「い、嫌だよ、リョータッ! 私の邪魔をしないで!」
「いーや、邪魔するね!」
僕を振り払って部屋の奥に走ろうとするマルガレーテを、後ろから羽交い締めにする。
「リョータは、私がどうして死ぬのか理解していないでしょう!?」
「理解が何だ!? そういう問題じゃない!」
「生きていることが死ぬことよりいいって、あなたには証明出来るの?」
「出来ないね。する必要がないからだ」
このまま外にも聞こえる状況で取っ組み合いを続けているのはまずい。片腕で彼女の動きを封じながら、中に入ってドアを閉める。鍵もかけた。
「結局、暴力なのね。父さんと同じ! リョータはそんな人じゃないと思ったのに!」
「そうじゃない!」
彼女の体温が伝わる。身を震わせ、顔を伏せている彼女は泣いているようだ。
男の力で抱きすくめられていたら、女子高生としては背の高いマルガレーテでも動けない。じきに、抵抗がおさまった。
床に、長い縄が落ちている。
「これは……?」
なぜ縄なんか落ちているのか分からないが、好都合だ。いきなりどこかから包丁でも取りだして、自分を刺すかもしれない。僕は縄を拾い上げると、マルガレーテを座らせ、後ろ手に縛り上げた。加減が分からないが、ほどけないようにきつく縛る。
「……これか?」
座卓の上に、大振りのナイフが置いてあった。鞘から抜いてみると、刃も鋭利で、じゅうぶん人を殺せるだろうと思えた。
「これで、死ぬつもりだったのか?」
「そうよ。このロープで首を吊ることも考えたけど……喉を切って、死ぬことにしたの」
マルガレーテの目に、悲しみの色があった。
「お願い。死にたい。私は死にたいの。あなたが生きたいのとちょうど同じくらい私は死にたいの。私を生かしておこうとするのは、あなたのエゴ以外の何物でもないでしょう?」
マルガレーテの懇願。彼女は本気で死にたいと思っているのだ。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。どうしたらいいか分からない。
論理は、思考は、答えを与えてくれない。
だが、身体と口は、考えるより先に、勝手に動いていた。
「分かったよ、マルガレーテ」
ナイフを持ったまま、マルガレーテを立たせると、左腕で抱きしめたまま、手首の縄をほどいた。
「じゃあ……」
「ああ、死ぬといい。ただし、僕が死ぬのを見届けてからだ」
言い終わると同時に、僕は自分の喉を深々と裂いた。その瞬間は熱さしか感じず、血のほとばしる感触がして、そして何も分からなくなった。
意識が戻った時、僕は全身を固定されていた。よく状況が飲み込めずぼんやりと天井を見つめていた僕だったが、誰かが枕元に立っているのに気がついて、そちらに視線を向けた。
マルガレーテだった。
その顔には微笑が浮かんでいたが、いつもとはどこか違う、始めて見る表情のような気がした。
「……」
声を出そうとしたが、無理だった。
「あなたが私を生きる事に引き戻したかったのは分かる。でも、何故自分が死のうとしたのかが分からない。あなたの血を浴びた時、私が生きようと思った理由も分からない……」
僕は笑った。僕だって何も分からない。でも、それで良いと思ったからだ。終極痩身
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1976/02/12
職業:
職員
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旅行
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