「ヒトラーの科学者たち」ジョン・コーンウェル

ナチス政権下の科学者が、政権および第二次世界といかに係わったかを描く。

話はパリ万博にまで遡る。ドイツ最先端科学技術は世界を驚かせる。19世紀末から20世紀にかけては「ドイツの科学は世界一ィィィィ」だった。これがイギリスに警戒感を与える。
第一次世界大戦が始まると英国は海上封鎖で火薬に欠かせないチリ硝石の輸入を阻止。だがフリッツ・ハーバーの開発した「空中窒素固定法」により空気中の窒素がアンモニアに「変わるわよ♪」、問題は解決。さらにハーバーは毒ガス攻撃を提唱、自ら指揮をとる。
ヒトラーが政権をとるとユダヤ人科学者の追放が始まる。ユダヤ人だったハーバーも職を追われ客死する。追放はドイツの科学を退化させるとの声にヒトラーは「ならば科学の進歩無しで戦争を戦うのみ」とうそぶく。
威哥王
核分裂を発見しながら、大量の物理学者を失ったドイツは原爆開発で遅れをとる。だが問題は、ナチス体制の非効率と国力の決定的違いにも原因がある。マンハッタン計画はのべ18万人が関わったが、ドイツの成功した最大のプロジェクトであるＶ２開発も数千人規模であった。
広島に原爆が投下されたときハイゼルベルクやハーンといった主な物理学者は英国の抑留先でこの報に接する。彼らの反応が興味深い。
巨人倍増
その他、ナチスの奇想科学についての記述も面白い。「ムー」ではお馴染みのアーネンエルベや、宇宙を氷と火の永遠の闘争と捉えるハンス・ヘルビガーの「宇宙永久氷説」が、ちゃんと取り上げられているのも嬉しい。

本書は扱う範囲が多岐に亘るために個々の記述には首を傾げる点もある。1945年までウーデッドに航空機開発の責任があるように読める部分、多薬室砲についての意味不明な説明。「マルク６型タイガー戦車」なんて他の本では見たことがない。

しかし、それでもナチスの科学技術を一冊で俯瞰するには、これ以上のものは無いのではないかと思う。興味深い一冊である。